Juventus【サッリ式4312】の2トップについて語る
◇はじめに
さて、冬の休暇期間が終わり、来る6日23:00キックオフ、セリエA第18節のCagliali戦に向けて選手たちはトレーニングに励んでいることでしょう。19/20シーズンの後半戦がいよいよ始まるわけですが、その前に現在のJuventusで最も多く採用されている『4312』システムの最前列の2トップについて19/20シーズン開幕からの全公式戦24試合のデータを用いてアレコレと調べてみたのでまとめてみようと思います。
◆2トップの現在の序列
セリエ第5節のBrescia戦から採用されはじめた4312システム。以外なのはサッリが新システムを試したそのタイミングだ。第5節のBrescia戦というのは相手が昇格組というのもあってか、ロナウドは休養ということでアウェイ遠征に帯同しなかったのである。"王様"不在のこのタイミングでのディバラ、イグアインの2トップ採用が、そもそものスタートであった。私は当初、【ロナウドがいない=前線から守備(≒プレッシング)ができる】という点を考慮してディバラとイグアインの2トップを限定的に採用したと考えていた。しかし、実際はロナウドがスタメンに戻ってきた次節のSPAL戦でも4312は採用されたし、その後は皆さまご存知のとおりほとんどの試合でロナウドのスタメン、非スタメン関係なく、4312というシステムが基本形となっている。
むしろ2トップの1席はロナウドの玉座状態になっているのが現状だ。そして、余った『王の右腕』という席をディバラとイグアインが争っている。試合を観ていれば、体感的に明らかであるが、一応以下のグラフを作成してみたので参考にしてほしい。
グラフ作成の簡易化のためロスタイムは計上していない。緑セルはスタメンフル出場を表していて、水色セルは出場なしを表している。留意したいのは、ロナウドが出場しなかった3試合はすべてアウェイ戦で現場に招集すらされていない(=完全休養)ので、ディバラとイグアインの出場なしとはやや意味合いが異なる点だ。
3者の前半戦における公式戦24試合の出場機会を視覚的に分かりやすく円グラフで表すと以下のようになる。
青色の割合がフル出場、緑色の割合が途中で下げられたケースを表す。サッリはこの3人おいて前半で下げたことはないので、緑色の割合は後半にベンチ下がった割合と同義である。そのため青色+緑色の割合が多いほど出場機会に恵まれていると判断できる。
やはり、サッリの2トップにおける序列のNo.1はロナウドで揺るがないということが改めて分かる。ディバラとイグアインに関してはそこまで大きな差はないが、ややイグアインのほうが出場機会に恵まれていると見ていいだろう。
つまり、出場機会から見る2トップの序列についてまとめると
となる。
◇ゴールとアシスト及びプレイ時間(単位分)について
この項では3人のFW陣の実績(ゴール&アシスト)とプレイ時間について考えてみたい。
・ゴールとアシスト
今季公式戦24試合でのゴール&アシスト数は以下の通りである。
ロナウド :12ゴール 1アシスト
ディバラ : 9ゴール 4アシスト
イグアイン: 6ゴール 6アシスト
特徴的なのが、3人ともゴール数とアシスト数を足し合わせると13(ロナウド、ディバラ)、12(イグアイン)と近い数値に収束することだ。
ゴール特化のロナウドに対して、およそ7:3でゴールとアシストを記録するディバラ、5:5の割合でゴールとアシストを記録するイグアイン。
アシストの内訳は以下の通りである。括弧内は同選手に対するアシストの回数
イグアイン →ディバラ(2)、ロナウド(1)、クアドラード(1)、デリフト(1)、コスタ(1)
ここで特徴的なのが、ロナウドはディバラ、イグアインから合わせて4つのアシストをもらっているがロナウドから彼らへのアシストはないということだ。
そもそもロナウドは今季アシストがかなり少なくなっているが、ディバラとイグアインとの関係性がどうというよりは昨季と比べてプレーエリアがより中央になりゴールに近くなったため、昨季ひとつのアシストパターンであった左サイドからクロスを入れる場面の減少がアシストの少なさに表れていると思う。
・プレイ時間
ここでは、これまでの全公式戦24試合における詳細なプレイ時間についてまとめる。単位は分。
ロナウド 1225(セリエA)+532(CL)+93(Supercoppa)=1850 min
ディバラ 968(セリエA)+206(CL)+93(Supercoppa)=1267 min
イグアイン 1007(セリエA)+399(CL)+93(Supercoppa)=1499 min
算出したそれぞれのプレイ時間を用いて、min/Goalを求めると以下の通り。(少数第2桁四捨五入)
ロナウド 1850/12=154.2(min/Goal)
ディバラ 1267/9=140.8(min/Goal)
イグアイン 1499/6=249.8(min/Goal)
今季これまでゴールのペースという意味で一番良い数値を残しているのがディバラということが分かる。ロナウドも僅差で次点につき、イグアインは2人と比べて1ゴールにつき100minほどの差がある。
まとめると、今季前半戦でゴールを決めるペースは
次にアシストを含めたmin/GorAを算出する。これはゴールもしくはアシストを何分おきに記録しているかを確認することができる。
ロナウド 1850/(12+1)=142.3(min/GorA)
ディバラ 1267/(9+4)=97.5(min/GorA)
イグアイン 1499/(6+6)=124.9(min/GorA)
ここで分かるのは、アシスト数の低いロナウドの数値は伸びない反面、アシストを多く記録するイグアインやディバラの数値がかなり良くなるということだ。ゴールを決めるペースに続きここでもディバラが3者の中ではトップの数値を出している。97.5(min/GorA)ということは、およそ1試合フル出場したらゴールもしくはアシストを1度記録するペースということだ。
まとめると、今季前半戦でゴールもしくはアシストで得点に関与するペースは
◆継続性について
この項では、3人のFW陣の継続性についてまとめていきたい。
・ロナウド
上記の図1は19/20前半戦の公式戦24試合についてロナウドのプレイ時間(黄色線、右軸)、ゴール(青棒、左軸)、アシスト(緑棒、左軸)をまとめたものである。
ここから得られるロナウドの継続性は
継続性(好調)
・ピークは12/1~12/18にかけての5試合連続ゴールで合計6ゴールをあげたとき
・9/21~10/19にかけて(9/24は招集外)の5試合で出場3試合連続ゴールを含む4ゴール1アシスト
継続性(不調)
・ピークは11月の出場4試合連続ノーゴール、ノーアシスト
・シーズン開幕直後の4試合1ゴールも本調子とは言えず
・ディバラ
上記の図2は19/20前半戦の公式戦24試合についてディバラのプレイ時間(黄色線、右軸)、ゴール(青棒、左軸)、アシスト(緑棒、左軸)をまとめたものである。
ここから得られるディバラの継続性は
継続性(好調)
・ピークは9/28~10/26にかけての6試合で4ゴール2アシストを記録したとき
・11/10~11/26にかけて3試合連続ゴール
・12/11~12/22にかけて4試合で2ゴール2アシスト
継続性(不調)
・開幕直後の出場4試合ノーゴールノーアシスト
・10/30~11/6にかけて3試合連続ノーゴール、ノーアシスト
・イグアイン
上記の図3は19/20前半戦の公式戦24試合についてイグアインのプレイ時間(黄色線、右軸)、ゴール(青棒、左軸)、アシスト(緑棒、左軸)をまとめたものである。
ここから得られるイグアインの継続性は
継続性(好調)
・11/2~11/26にかけて4試合連続アシスト含む4アシスト2ゴール
継続性(不調)
・10/19~10/26にかけて3試合連続ノーゴール、ノーアシスト
・11/12~12/7にかけて3試合連続ノーゴール、ノーアシスト
まとめ
・前提として、グラフの黄色線を見れば分かる通りディバラとイグアインのプレイ時間は全く安定していないのでこの状況で安定して結果を残すのはロナウドに比べて難しいと言えるだろう。
・3者ともにシーズン開幕直後はあまり調子があがらなかった
・好調時の継続性と不調時の継続性の項目数の足し引きで言えば、ディバラ>ロナウド>イグアインだが、ロナウドの5試合連続ゴールは他の2人では再現できていないオンリーワンかつナンバーワンの記録であるし、単純に比較するのは難しい。
◇結論
この記事では、特にロナウド、ディバラ、イグアインのゴールとアシスト、プレイ時間そして継続性について取り上げたが、筆者の個人的な結論としては3人のなかで飛びぬけた選手はいないということだ。強いて言うならば少ない出場機会で結果を残しているディバラにはもう少しチャンスを与えるべきではと思う。にもかかわらずロナウドだけ飛びぬけて出場機会が与えられていることに関して違和感を感じる。そこにはロナウドという計り知れない強い個性や、ピッチ上以外の要素(マーケティングや契約問題など)が絡んでいるかもしれないが、サッリにはぜひ突破口を編み出してもらいたい。
その解決策として取り組んでいるのがHDRの同時起用だと思われるが、現状の4312ではどうしても守備の面でうまくいっていないように感じる。攻撃面でHDRを同時起用することが最も理想的なのかもしれないが、それは守備を放棄していいということではない。シーズン序盤に433→4312に変化したときのように、もう一度HDRを主軸にシステムを練り直すときかもしれない。
正直、12月のHDRスタメン起用はサッリのおこがましさが垣間見えてツラいものがあった。HDRも使いたい、でも自分の考えたゾーンディフェンスは崩したくない、あれもやりたいこれもやりたい状態で柔軟性に欠けた末路がLazio戦における敗戦だと思っている。
まとめ
・ロナウド、ディバラ、イグアインの3人の中で飛びぬけた選手はいない。
・(攻撃面での)理想は3人を同時起用できること
・皮肉なことに最も出場機会に恵まれていないディバラが、最も出場機会に恵まれているロナウドと同等の成績を残している。
・HDRを実現するためにシステムを練り直すべき≒トータルゾーンディフェンスを妥協する